「AIは司法試験に合格するほど賢い」というニュースを見た後に、実際にAIを使ってみたら簡単な計算を間違えられて、「えっ、本当に賢いの?」と拍子抜けしたことはありませんか?
この記事では、最新の研究結果をもとに、AIがなぜ簡単な計算や推論でつまずくのか、その意外なメカニズムを分かりやすく解説します。
目次
司法試験は受かるのに、なぜ掛け算は間違える?
まず、AIの能力がいかにアンバランスかを示す具体的な例を見てみましょう。
2026年1月現在、最新のAIモデルの中には、最難関と言われる司法試験で上位10%に入るほどの知能を示すものがあります。
複雑な法律問題を解釈し、論理的な文章を構成する能力は、まさに「超人的」と言えるでしょう。
ところが、同じAIに「5桁同士の掛け算」をさせると、平気で間違った答えを出すことがあります。
人間なら、司法試験に受かる頭脳があれば、掛け算の筆算くらい間違えずにできるはずです。なぜAIにはこれができないのでしょうか?
その理由は、AIが「計算」をしているわけではないからです。
最新研究で判明!AIは「計算」ではなく「言葉の続き」を予測している
Appleの研究者らが発表した論文(GSM-Symbolic)によると、AIの数学能力にはある重大な「見せかけ」が含まれている可能性が指摘されています。
研究チームは、AIの性能評価によく使われる数学の問題集(GSM8K)をベースに、問題の構造はそのままにして「数値」や「名前」だけを入れ替えた問題を大量に作成し、AIに解かせてみました。
もしAIが人間のように「論理的に計算」して解いているなら、数字が変わっても解き方は同じなので、正答率は変わらないはずです。しかし、結果は驚くべきものでした。
- 数字を変えただけで正答率がブレる:
論理構造は同じなのに、数字が変わると解けなくなるケースが多発しました。 - パターンマッチングの可能性:
これは、AIが計算のルールを理解しているのではなく、学習データの中から「似たような問題と答えのパターン」を探し出し、それを当てはめているだけであることを示唆しています。
つまり、AIにとっての「計算」とは、電卓のように答えを算出することではなく、「この数字の並びの次に来そうな数字」を確率で予測しているだけなのです。
実は「ひっかけ」に弱い?不要な情報で混乱するAI
さらに、AIの「脆さ」を示す興味深い実験結果もあります。
問題文の中に、答えには全く関係のない「不要な情報(ノイズ)」を1文だけ追加してみたのです。
例えば、計算問題の中に
「ちなみに、〇〇さんは割引券を持っています(が、今回は使いません)」
といった情報を混ぜます。
人間なら「ああ、これは関係ないな」と無視して計算できますが、AIはどうなるでしょうか。
研究結果(GSM-NoOp)によると、たった1文のノイズが入るだけで、最先端のAIモデルであっても性能が最大65%も低下することが確認されました。
AIは「文章にある情報はすべて重要だ」と捉えてしまい、関係ない数字まで無理やり計算式に組み込んで自滅してしまうのです。
簡単な問題ほど難しい?「暗記」の弊害
Google DeepMindの研究者らが発表した別の論文(Frontier LLMs & Unpuzzles)では、さらに不思議な現象が報告されています。
AIは、難解な論理パズル(アインシュタインのパズルなど)を解くことができます。
しかし、そのパズルの条件を極端に減らし、人間なら一瞬で分かるほど「簡単にしたバージョン」を出題すると、逆に失敗する現象が起きたのです。
これは、AIが難問を解けていた理由が「高度な思考力」によるものではなく、「有名な問題の答えを丸暗記していた(学習データに含まれていた)」からである可能性が高いことを示しています。
問題を単純化して「見たことのない形」に変えられた途端、AIはどう答えていいか分からなくなってしまったのです。
まとめ:AIの「デコボコ」と上手に付き合う方法
AIが「賢いのに計算を間違える」理由は、AIが論理や計算を理解しているわけではなく、膨大なデータに基づいた「高度なものまね(パターンマッチング)」を行っているからだと言えます。
この特性を理解した上で、私たちは次のようにAIと付き合う必要があります。

- 計算はさせない: 正確な計算が必要な場合は、AIに答えを出させるのではなく、電卓を使うか、AIに「計算用のプログラムコード(Pythonなど)」を書かせて、それを実行するのが確実です。
- 「思考」を過信しない: どんなに賢そうに見えても、ちょっとした「ひっかけ」や「条件変更」でコロッと間違える可能性があります。重要な判断には必ず人間のチェックを入れましょう。
- 得意分野に任せる: 計算や厳密な論理は苦手でも、文章の要約、アイデア出し、翻訳などは得意です。AIの「デコボコ」の「出っ張っている部分」をうまく活用しましょう。
AIは万能な「電子頭脳」ではなく、言葉を操るのが上手な「確率の魔術師」です。その特性を知っていれば、計算ミスにイライラすることなく、賢く使いこなすことができるはずです。
