「新規顧客の獲得よりも、既存顧客の維持の方がコストが低い」とよく言われますが、特に「紹介」で来たお客様は、一度取引が始まると、なぜか離れにくいと感じたことはありませんか?
この記事では、歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書『NEXUS』で紹介されている「非有機的ネットワーク」と「ポピュリズム」という、一見難しそうな2つの概念を使って、その秘密を解き明かしていきます。
【用語解説】
- 非有機的ネットワーク:家族や友人といった自然なつながり(有機的ネットワーク)とは異なり、会社や学校、スポーツチームなど、共通の目的のために意図的に作られたつながりのことです。
- ポピュリズム:大衆が自ら声を上げ、社会やネットワークに影響を与える力を持つことを指します。一般的には「大衆迎合主義」と訳されますが、ハラリ氏はこれを「大衆に力を与える主義」と捉えています。
非有機的ネットワークとは?
私たちは、家族や友人といった自然なつながり(有機的ネットワーク)だけでなく、会社や学校、スポーツチームなど、共通の目的のために意図的に作られたつながり(非有機的ネットワーク)の中にも生きています。
ハラリ氏によると、人類の歴史は、この非有機的ネットワークを大規模に作り出すことで発展してきました。
たとえば、あなたが友人Aからの紹介で、ある英会話教室に入会したとしましょう。
友人Aという有機的なつながりから、英会話教室という非有機的なネットワークへと足を踏み入れたわけです。
このとき、あなたと英会話教室との間に、友人Aという「信頼のおける仲介者」がいることがポイントです。

このネットワークは、あなたと英会話教室を直接結びつけるだけでなく、あなたと友人A、友人Aと英会話教室という複数の線で結ばれており、より強固なつながりとして機能します。
ポピュリズムが強固なつながりを生む
では、ポピュリズムはどう関係するのでしょうか?
ハラリ氏は、ポピュリズムを「大衆に力を与える主義」と捉えています。
英会話教室の例に戻りましょう。
あなたがレッスンに満足し、英会話が上達したとします。
そして、SNSでその成果や教室の良さを投稿したり、他の友人Bに「この教室、本当に良いよ!」と熱心に勧めたりします。
これは、あなたが英会話教室という非有機的ネットワークの一部として、自らもポピュリズムの担い手になっている状態です。
あなたが友人Aを介したように、あなたが友人Bのあなたが発信する情報が、英会話教室の評判や影響力を高め、友人Bがその投稿を見て入会を決めるかもしれません。

「非有機的ネットワーク」と「ポピュリズム」で紹介顧客が離れない理由
この2つの概念を組み合わせることで、紹介顧客が離れにくい理由が見えてきます。
- 信頼のネットワークが何重にも張り巡らされる:
紹介者(友人A)という信頼できる有機的なつながりを通じて、新しいネットワーク(英会話教室)に入った顧客は、安心してサービスを利用できます。この多層的な信頼関係が、顧客をそのネットワークに強く引き留めます。 - 顧客自身がネットワークの一部となる:
紹介された顧客が、満足してサービスを利用し、さらに他の人に紹介したり、SNSで良い評判を発信したりする(=ポピュリズムの担い手になる)ことで、顧客自身がそのネットワークの維持・拡大に貢献する存在になります。自分が貢献したネットワークは、簡単には離れられないと感じるものです。
このように、紹介顧客は単なる「お客様」ではなく、ネットワークを形成し、強化する「パートナー」とも言える存在になります。
まとめ
『NEXUS』に学ぶ「非有機的ネットワーク」と「ポピュリズム」は、紹介顧客がなぜ離れにくいのかを深く理解するヒントを与えてくれます。
単に良い商品やサービスを提供するだけでなく、お客様が「誰かを紹介したい」「このサービスの良さを広めたい」と自然に思えるような、強固なネットワークを築くことが、顧客をファン化させる鍵なのかもしれません。
あなたの商品やサービスは、お客様に「誰かに伝えたくなる」体験を提供できていますか?
参考資料
- ユヴァル・ノア・ハラリ著『NEXUS 人類史から読み解くネットワークの力』(河出書房新社)前文はこちらから閲覧可能です。https://web.kawade.co.jp/tameshiyomi/125429/