「AIがなぜその答えを出したのか?」
業務でAIを活用する際、この疑問にぶつかったことはないでしょうか。特に重要なビジネス判断や分析をAIに任せる場合、結果だけポンと渡されても、根拠が分からなければ不安が残ります。
「ブラックボックス」と言われがちなAIの思考プロセスですが、2026年1月現在、技術は大きく進歩し、AIの意思決定プロセスの一部をログとして残すことが可能になりつつあります。
この記事では、特にユーザーの多いGeminiとChatGPTに焦点を当て、現時点で「どこまで思考を追跡できるのか」を解説します。
目次
結論:思考の「要約」ならログ保存が可能になりつつある
まず結論からお伝えすると、AIの脳内で行われている計算処理のすべて(ニューラルネットワークの全挙動)を人間が理解できる形で記録することは、依然として困難です。
しかし、AIが回答を導き出すまでの「論理的な推論ステップ」をテキスト化し、それをログとして保存することは、最新のモデルで実用化が始まっています。
Google Gemini:思考プロセスを「要約」として取得可能
2026年1月時点で、この分野で具体的な仕様が公開されているのがGoogleのGeminiです。開発者向けの最新ドキュメント(2026年1月20日更新)によると、Geminiには明確に「思考(Thinking)」を可視化する機能が実装されています。
1. 「思考の要約」が取得できる
Geminiの最新モデル(Gemini 3および2.5シリーズ)では、回答を生成する前に内部的に行う「思考プロセス」を、「思考の要約(Thinking Summary)」として出力させることができます。

これは単なる回答だけでなく、「まずAについて検討し、次にBのデータを分析し、その結果Cという結論に至った」という経緯をテキストデータとして取得できる機能です。
システム開発者はこのデータをログとして保存することで、後から「なぜAIがそう判断したのか」を追跡(監査)することが可能になります。
2. 思考の「深さ」を調整できる
興味深いのは、この思考プロセスのレベルを調整できる点です。
- Gemini 3:「思考レベル(thinkingLevel)」を設定可能。簡単なタスクならレベルを下げてコストを抑え、複雑な分析ならレベルを上げて深く推論させることができます。
- Gemini 2.5:「思考予算(thinkingBudget)」を設定可能。思考にどれくらいのトークン(文字数のような単位)を使うかを指定できます。
これにより、重要な意思決定にはコストをかけてしっかり思考させ、そのログを残すという運用が現実的になっています。
ChatGPT:推論モデルによるプロセスの可視化
一方、OpenAIが提供するChatGPTについても見てみましょう。
ChatGPTでも、複雑な科学的推論やプログラミングを行うモデル(一般的に「o1」シリーズなどの推論強化モデル)において、回答に至るまでの「思考の連鎖(Chain of Thought)」を表示する機能が導入されています。
ユーザー画面上では「思考中」の内容を展開して確認できる場合がありますが、システム連携(API)においてGeminiのように「思考の要約」を構造化データとして明示的に取得・保存できるかについては、使用するモデルのバージョンや仕様を都度確認する必要があります。
しかし、業界全体のトレンドとして、AIモデルが「直感的に答える」だけでなく「熟考して答える」方向へ進化していることは間違いありません。
なぜ「意思決定の追跡」が重要なのか?
なぜ今、こうした「思考ログ」の機能が強化されているのでしょうか。背景には、世界的な法規制の流れがあります。
EU AI法による透明性の義務化
2026年8月から本格的に施行される条項を含む「EU AI法」では、AIシステムに対して高い透明性が求められています。
- AIであることの開示:ユーザーに対して、AIと対話していることを通知する義務。
- 合成コンテンツの明示:AIが生成したテキストや画像には、機械が読み取れる形式でマークをつける義務。
このように、「AIが何をしたか」を明確にするルールが厳格化されています。企業がAIを導入する場合、後からトラブルが起きた際に「AIがなぜその判断をしたか」を説明できる能力(説明責任)が、リスク管理の観点からも不可欠になっているのです。
まとめ:2026年、AIは「言いっ放し」から「説明責任」へ
2026年1月時点での状況をまとめます。
- Gemini:APIを通じて「思考の要約」を取得・保存する機能が正式に提供されており、意思決定ログの実装が容易になっている。
- ChatGPT:推論プロセスを表示する機能はあるが、ログとしての保存方法は利用形態(Web版かAPI版か)による。
- トレンド:法規制(EU AI法など)の後押しもあり、「判断の根拠」を残す機能は今後さらに標準化されていく。
もしあなたが自社システムにAIを組み込む検討をしているなら、「回答の精度」だけでなく、「思考プロセスのログが残せるモデルかどうか」を選定基準の一つにすることをお勧めします。
